研究領域の現状 247
藤 井 浩(准教授) (1998 年 3 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:生物無機化学、物理化学
A -2) 研究課題:
a) 酸化反応に関与する金属酵素反応中間体モデルの合成 b) 亜硝酸還元酵素の反応機構の研究
c) 小分子をプローブとした金属酵素の活性中心の構造と機能の相関
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 生体内で酸化反応に関与する金属酵素は,その反応中に高酸化状態の反応中間体を生成する。この高酸化状態の 反応中間体は,酵素反応を制御するキーとなる中間体であるが,不安定なため詳細が明らかでない。また同様な反 応中間体は,金属錯体を触媒として用いる酸化反応中にも存在すると考えられている。酸化反応に関わる金属酵素 の機能制御機構を解明するため,高酸化反応中間体のモデル錯体を合成し,電子構造と反応性の関わりを研究した。 オキソ鉄4価ポルフィリンπカチオンラジカル錯体とシクロヘキセンの反応を速度論的に解析した結果,シクロヘ キセンのアリル位水酸化反応がエントロピー制御であることを明らかにした。また,立体障害をもつマンガン3価 サレン錯体からオキソマンガン4価サレン錯体の合成,同定に成功した。マンガンイオンに配位したオキソ配位子 は,容易にプロトン化を受けてマンガン4価ヒドロキシ錯体に,さらにはマンガン3価フェノキシラジカル錯体に 変化することを明らかにした。
b) 地中のバクテリアの中には,嫌気条件で硝酸イオンを窒素に還元する一連の酵素が存在する。これらの過程で,亜 硝酸イオンを一酸化窒素に還元する過程を担う酵素が亜硝酸還元酵素である。銅イオンを活性中心にもつ本酵素の 反応機構をモデル錯体から研究した。イミダゾール基やピラゾール基をもつ3座配位子から銅1価亜硝酸錯体の合 成に成功した。
c) 金属酵素と強く結合する小分子をプローブとした構造・機能測定法の開発を行った。
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C u N M R は,シグナルが極 端に広幅化するため,観測困難な核種の一つであった。我々は,銅イオンに一酸化炭素が配位すると,
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C u N M R シグナルが極端に先鋭化することを見出した。種々の配位子から銅錯体を合成し,一酸化炭素による先鋭化を検討 した。その結果,合成したすべての錯体で
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C u NMR シグナルの先鋭化が観測できた。線幅の温度依存性から,一 酸化炭素は銅イオンの核四極子緩和過程を変化させていることがわかった。
B -1) 学術論文
M. KUJIME, T. KURAHASHI, M. TOMURA and H. FUJII, “63Cu NMR Spectroscopy of Copper(I) Complexes with Various Tridentate Ligands: CO as a Useful 63Cu NMR Probe for Sharpening 63Cu NMR Signals and Analyzing the Electronic Donor Effect of a Ligand,” Inorg. Chem. 46, 541–551 (2007).
A. TAKAHASHI, T. KURAHASHI and H. FUJII, “Activation Parameters for Cyclohexene Oxygenation by an Oxoiron(IV) Porphyrin p-Cation Radical Complex: Entropy Control of an Allylic Hydroxylation Reaction,” Inorg. Chem. 46, 6227–6229 (2007).
248 研究領域の現状 B -4) 招待講演
藤井 浩 , 「高原子価ヘム酵素反応中間体の反応選択性」, 分子研研究会「ヘム代謝に関わる酵素の分子科学」, 岡崎 , 2007年 3月.
H. FUJII, “Role of highly conserved three-histidines ligand environment of type-2 copper site in copper containing nitrite reductase,” 13th International Conference on Bioinorganic Chemistry, Vienna (Austria), July 2007.
B -6) 受賞、表彰
高橋昭博 , 日本化学会学生講演賞 (2007).
B -8) 大学での講義、客員
兵庫県立大学大学院生命理学研究科 , 客員准教授 , 2007年 2月– .
B -10)外部獲得資金
奨励研究 (A ), 「ヘム酵素の軸配位子が多様な酵素機能を制御する機構の解明」, 藤井 浩 (1997年 –1999年 ).
重点領域研究(公募)「生体金属分子科学」, 「チトクロームc酸化酵素反応中間体モデル錯体の構築と反応機構の研究」, 藤 井 浩 (1997年 –1998年 ).
上原記念生命科学財団 研究奨励金 , 「ヘムオキシゲナーゼにおける反応特異性およびヘム代謝機構の研究」, 藤井 浩 (1999年 ).
重点領域研究(公募)「生体金属分子科学」「,
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O-NMR による銅−酸素錯体の配位した酸素の電子構造と反応性の研究」, 藤 井 浩 (1999年 ).
内藤財団 科学奨励金 , 「ヘムオキシゲナーゼによる位置特異的ヘム代謝機構の解明」, 藤井 浩 (2000 年 ).
基盤研究 ( C ) , 「合成ヘムとミオグロビン変異体による亜硝酸還元酵素モデルの構築と反応機構の研究」, 藤井 浩 (2000 年 – 2002 年 ).
基盤研究 (B), 「単核非ヘム酵素反応中間体としての高酸化オキソ錯体の合成と反応性の研究」, 藤井 浩 (2002 年 –2004年 ). 大幸財団 海外学術交流助成金 , 「第3回ポルフィリンとフタロシアニンに関する国際会議での研究発表」, 藤井 浩 (2004 年 ).
基盤研究 (B), 「立体構造にもとづく基質結合サイトの再構築による酵素反応選択性の制御」, 藤井 浩 (2004年 –2007年 ). 特定領域研究(公募)「配位空間」「金属酵素のナノ反応空間における基質の配向およ, び反応選択性の制御」, 藤井 浩 (2005 年 –2006年 ).
C ) 研究活動の課題と展望
生体内の金属酵素の構造と機能の関わりを,酵素反応中間体の電子構造から研究している。金属酵素の機能をより深く理解 するためには,反応中間体の電子状態だけでなく,それを取り囲むタンパク質の反応場の機能を解明することも重要であると 考える。これまでの基礎研究で取得した知見や手法をさらに発展させて,酵素,タンパクのつくる反応場の特質と反応性の 関係を解明していきたいと考える。また,これらの研究を通して得られた知見を基に,酵素機能変換法の新概念を確立できる よう研究を進めたいと考える。